Chapter 0 本企画立ち上げまでの経緯

 

北と南の交流プロジェクトが生まれた背景を記載させていただきます。

1、舞台芸術活動編

本企画の中心メンバーである森嶋拓は CONTE-SAPPORO Dance Centerというダンスセンターを運営しており、中間支援組織として舞台芸術の活性化と環境改善のために様々なことを実施してきました。

コンセプトは
「 いま、何が地域に(世の中に)必要なのか、足りないものは何か

約10年前の札幌では、ダンスの発表会やダンス協会による合同公演(いずれも大きなホールでの公演)はたくさんありましたが、自主公演(特に小劇場での独自性の高い公演)が非常に少なかったので、まずはそれを自分たちで企画しようということから始めました。

また、公演だけではなく、ダンサーや舞踏家、振付家の育成の機会が少ないことに気が付き、国内外から様々な講師を招いてワークショップや講座を実施いたしました。
札幌市内の方を対象に実施することもあれば、最近では全国からの受講者を対象とした企画も実施しています。
(振付家育成講座、コンテンポラリーダンス、舞踏、即興、コンタクト、野外ワークショップなど)

その成果は少しずつあらわれ、札幌でもダンスカンパニーやプロジェクトなどが立ち上がり、作品を作る人や公演を自主企画する人が増えてきました。
そこで次のステップとして、ダンスフェスティバルや舞踏フェスティバルを開催しました。

北海道内の作家と国内外の作家が一堂に集って、多種多様な作品を発表する場です。
舞踏フェスティバルはグローバルとローカルをテーマに、海外への発信と交流を重要視して日本語と英語の2カ国語表記にしました。

 

2、外に飛び出したパフォーマンス、多領域のアートとの親交編

コンテンポラリーダンスや舞踏という先鋭的な踊りは、観客にも「観察力や洞察力」「アートの文脈への理解」を多少は要求する部分がある、少し難しい表現であります。

こういった表現は、大都会(日本なら東京)や都市圏(日本なら首都圏や関西圏)であれば、関係者や観客などの総数は「シーンが成立する規模」になると思いますが、札幌くらいの中都市ですと 『プレイヤーも観客もギリギリ成立するかしないか』程度の規模になりがちです。

自分たちの活動領域を広げる為には、舞台芸術や身体表現の面白さを多くの方に知ってもらう必要性がありました。
と、同時に私達自身がそもそも既存のやり方や価値観を破ったり、分野を横断していくことが好きだったので、劇場での活動と並行して 「劇場を飛び出し、日常の中に表現を置く」事をしていきました。

PUNCTUAL PEOPLE ダンスのある日常/ショーウィンドウパフォーマンス
振付・構成:平原慎太郎 出演:平原慎太郎、東海林靖志、ワークショップ受講生
協力:inZONE、渡部倫子 写真:Saki Matsumura 企画:CONTE-SAPPORO Dance Center

札幌駅前の路面店、家具と雑貨を取り扱うinZONEのショーウィンドウの中でパフォーマンスを行った企画。
たくさんの通行人が驚きと共にダンスパフォーマンスを観ていました。

舞踏BAR Vol.1 – 5
総合演出:田仲ハル 舞踏ウェイトレス:髪立ツカサ 写真:yixtape

舞踏のことをよく知らない人に向けた企画で、お酒をまったりと飲みながら展示、映像、書籍、パフォーマンス、白塗り体験、トークを楽しめる盛りだくさんなBARイベント。
お酒は舞踏ウェイトレスが運んできてくれますが、動きがゆっくりなので時間がかかります。

ビル乗っ取りパフォーマンス「水協ビルを踊る」

乗っ取り犯グループ
田仲 ハル、東海林 靖志、松岡 大(山海塾)、齊藤 智仁、菊澤 好紀、柴田 智之
音楽隊乗っ取り犯
横山 祐太、岩瀬久美、ユーグ・ヴァンサン(Hugues Vincent)
ビルテナント抵抗勢力
大人の遊び場「TOMO」マスター(マイク)洋食屋「館」シェフ丸山(包丁)喫茶「紙ひこうき」建築事務所「p.v.b」管理組合一同  写真:Atsushi Kato

 

 

ダンサーと音楽家がビル乗っ取りをたくらむテロリストに扮し、3階建てのテナントビルに立て籠もるビル乗っ取りパフォーマンスです。
開演時間になったらシャッターを締め切り観客を人質に立て籠もるので、遅刻した人は残念ながら人質になることができません。

各階の店主たちはテロリスト達から店と観客を守るべく、カラオケバーのマスターはマイクを握り十八番を歌い、定食屋のシェフは包丁でキャベツを千切りするなど 各テナントの特性を活かしたパフォーマンスを展開しました

この企画はアーティストとテナントオーナーとの何気ない会話の中から生まれました。


TOBIU CAMP/トビウの森と村祭り 2011~2022 毎年開催 写真:Asako Yoshikawa, Noriko Takuma, yixtape, Kai Takihara

 

3、芸術祭の活動編

人口約17,000人の北海道白老町で行われている飛生芸術祭では、飛生アートコミュニティーのいちメンバーとして、またパフォーマンス部門のディレクターとして様々な活動を展開してきました。

飛生芸術祭のオープニングイベントという位置づけのイベントで、2011~2019まで開催していた「TOBIU CAMP」は1泊2日のオールナイトイベント。2021年からは1dayイベントとして「トビウの森と村祭り」を開催しました。

どちらのイベントも 廃校となった小学校とその裏の森を舞台に、アート、音楽、ダンス、演劇、人形劇、映像など様々な表現が至るところで展開される野外イベントとなります。


飛生芸術祭と並行して、飛生の森づくりプロジェクトを2011年からずっと続けています。
かつて小学生たちが遊んでいた森は、こどもたちがいなくなると荒れ果ててしまいました。
そこで 再びこどもたちが再び森で遊べるように、と立ち上がったプロジェクトです。

毎年、雪解けの時期から秋まで月に1-2回土日に集まって、朝から作業に汗を流し、夕方には温泉に入り、夜はBBQ、そしてまた朝から作業をして昼過ぎに解散します。

このプロジェクトをきっかけに、北海道中からアーティスト、ディレクター、木こり、漁師、大工、主婦、会社員、環境に詳しい人、イベントに詳しい人、農家、猟師、子ども達など様々な背景の人達が集まってくる、 アートと森づくりを主体としたコミュニティーが生まれました


森づくりに集まるこどもたち photo yixtape

4、アートと地域社会を繋げる取り組み編

飛生での活動は最初は「自宅⇔飛生」の往復だけでした。

旧飛生地区は白老町の中でも奥地にある限界集落で、自家用車やタクシー以外では行き着くことができない場所にあります。
主要メンバーが30代前半で、 最初はとにかく自分たちが面白いと思う表現活動をやりたいだけだったので、当初は白老町全体を盛り上げようという意識は特にありませんでした。

ところが少しずつ地域の人との交流が生まれ、メンバーも年を重ねて親になり、森づくりに集まる子供たちが増えていくことで意識が変わり、奥地から町へおりて活動地域を広げるようになっていきました。


飛生芸術祭 指輪ホテル「森のうさぎ 海へゆく」


先鋭的なハイアート、コンセプチュアルな現代アートだけを展開しても地域には馴染みにくいので、地域に飛び込んでたくさんの人とお会いして、たくさんお話しをして、地域にまつわる題材から作品を作っていくことをハイアートと並行して実施していきました。

これを私は勝手に【 Low-Cul-Art(ロウカルアート)】と呼んでいるのですが、多くの人に馴染みやすい芸術という意味の「ロウアート」と、文化の意味である「カルチャー」と、地域を意味する「ローカル」を掛け合わせた造語になります。

「ハイアートとロウカルアートを混在させることが重要」という意識が私の根幹にあり、どちらもあることが文化的な豊かさに繋がると考えています。

飛生芸術祭 音楽朗読劇「雁月☆泡雪」
取材・作:渡辺たけし 音楽:嵯峨治彦、嵯峨孝子 歌・朗読:小林なるみ (CDリリース公演時のみ)ゲスト:ロケット姉妹

北海道白老町の飛生芸術祭で上演されたプログラムで、 白老町にかつて存在した幻の銘菓「雁月泡雪」にまつわるお話を音楽朗読劇として上演しました。

演出家の渡辺たけしが丁寧に取材を繰り返して脚本を作り、俳優の小林なるみ、音楽家の嵯峨治彦、嵯峨孝子が紡いだ市井の物語です。
上記の動画はそこから発展してCDを作成し、そのリリース公演として上演したものになります。


飛生芸術祭 OrganWorks 語る町/町の屋根/街の朝 の三部作 
作・取材・振付:平原慎太郎 出演:OrganWorks 写真:yixtape

「あなたにとってこの街はどんな街ですか?」
3年間に渡り、まち、いえ、がっこうをテーマに白老町民と一部登別市民およそ50人に取材を続けて創作されたコンテンポラリーダンス作品です。

セリフあり、演劇とダンスが融合したような作品で、アートを通して街を見つめる機会となりました。

飛生芸術祭 指輪ホテル『シラオイマッシュルームパビリオン/トビウ小7年2組萩野篇/牛を巡る冒険/シラオイタウンページコンピレーション』
構想:羊屋白玉(指輪ホテル)関係者:上野かなこ、竹中博彦、渡辺たけし、森迫暁夫、深澤孝史など書ききれないほど多数(おそらく60人以上)

初年度はリサーチを重ねた結果、菌糸類に注目して廃業した旅館を舞台に様々な種類のキノコオブジェと、擬人化したキノコの声を展示しました。

次年度は白老に突如現れる移動式の夜学を各所で展開、3年目は白老牛にまつわる歴史に牛頭天王を絡めた野外ツアー&映像を上映。
4年目にはそれらの活動を振り返るシラオイタウンページコンピレーションとオープンマイクとして、アーカイブ展示とパブリックトークを実施しました。

町に飛び込み題材や課題を見つけ、北海道のアーティストや地域住民を巻き込み、様々な形で作品に昇華した、どれも一言では簡単に説明しきれない指輪ホテルの作品です。

 


飛生芸術祭2018 朗読と馬頭琴「スーホの白い馬」 
出演:嵯峨治彦、嵯峨孝子、小林なるみ 写真:yixtape

なぜ、北と南を繋げるのか

活動開始当初は「北海道を活性化させること」を目標として、イベント、公演、フェス、ワークショップ、講座などあらゆることをしてきました。
少しずつ形になると、今度は道外ツアー、海外フェスとの提携、関東圏や関西圏での事業など北海道の外に活動を広げていきました。


現代文学演舞「地獄変」 札幌、千葉、大阪のお寺や劇場で上演 
演出:櫻井幸絵、平原慎太郎 出演:平原慎太郎、浜田純平、小田川奈央、東華子、彦素由幸/すがの公 音楽:嵯峨治彦、小山内崇貴 写真:yixtape


北と南という発想はなかったのですが、ある日某テレビ局の北と南のルーツや交流を取り上げる特番にほんの少しだけ関わったことで、影響を受けてしまったというのが正直なところです。
距離は遠いですが地域性や課題など 重なる部分が多く、いろいろなことを考えさせられました。

実際に2022年11月に九州に行ってみたところ、やはり北と南の関係性には何かがあると感じました。


「 ダンスに没頭する4日間」
講師:平原慎太郎、町田妙子、きたまり、田仲ハル、RAUMA、児玉北斗 写真:yixtape

シーンはまだまだ首都圏に集中しているが・・・

アートでも、ダンスでも、音楽でも。
シーンの中心は、まだまだ圧倒的に東京であると感じています。

大都会には大都会の役割があり、中都市には中都市の役割がそれぞれあると思っているので、大都会/首都圏を否定的に捉えることはなく、むしろ中心がちゃんとあることには肯定的です。
また、首都圏に次ぐ都市圏として、関西圏も重要な役割を担っていると考えます。

一方で、 北日本と南日本が盛り上がりを見せることで、東西南北・日本全体が活性化されることに繋がるので、北海道と九州もまた重要な役割を担っているということに気が付きました。


北海道舞踏フェスティバル2021 千歳公演
出演:極北会 音楽:奥野義典、吉田野乃子、Kim Yooi photo yixtape


3.11や新型コロナウイルス感染拡大、社会のデジタル化などの影響で生活に対する価値観が変わりつつあり、ある程度のキャリアを築いたアーティストは逆に都市圏から離れるという現象も起きています。

北海道や九州が活性化して受け皿として機能することで、キャリアのあるアーティストが都市圏以外での活動を選択しやすくなります。

地域にとってもキャリアのあるアーティストが移住してくることで、活性化は加速します。
都市圏に残り続けるアーティストにとっても地域の活性化は決して悪いことではなく、地域と連携できたり、遠征しやすくなったり、活動の幅を広げられるようになると考えます。


「 ダンスに没頭する4日間」
講師:平原慎太郎、町田妙子、きたまり、田仲ハル、RAUMA、児玉北斗 写真:yixtape

これからやっていきたいこと

まず最初にやっていきたいことは北と南の交流です。
リサーチやイベントという形を通して北海道のアーティストを九州に、九州のアーティストを北海道に来てもらい、芸術や文化を通して交流をはかります。
これは2023年度より始めていきます。